雑誌「精神療法」第52巻4号を読んで

2026年8月27日

2026年8月7日に発行された最新の「精神療法」誌の特集は、「わが国の司法精神療法の展望」です。
リフレクティングについて教えていただいた矢原隆行先生や家族療法について教えていただいた吉川悟先生の論考が掲載されており、興味深く読ませていただきました。
また、私は、保護観察所勤務を経て家裁調査官になったので、エッセイ欄に家裁調査官OBの岡本吉生先生や藤川洋子先生、保護観察官OBの生島浩先生の文章を見つけて、昔お聞きしたことのあるお話との繋がりを思い出しました。

矢原先生は、今回の論考の中で、矯正施設におけるリフレクティングと「対話実践」の成り立ちについて書かれていますが、その中で、私の関心と強く結びついたのは、拘禁刑導入の刑罰変更に関連して、2023年9月に矯正局から各刑事施設にリフレクティングの導入に関する通知が発出されたものの、大きな方針変更により現場の混乱や受刑者への皺寄せに繋がったため、新たな検討会や刑事施設との意見交換が実施されて2025年4月に旧通知を廃止して「組織風土の変容」が盛り込まれた新たな通知が発出されたことです。
この話をお聞きするたびに思い出すのは、父母の離婚紛争のために別居している親と子との面会交流(親子交流)についての経験です。

2012年7月の「家庭裁判所月報」誌に「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り方:民法766条の改正を踏まえて」という論文が掲載されました。これに対しては、「子ども中心の面会交流」という本が発行されるなどして面会交流の原則実施論であるとの批判がなされました。
当時、私は家裁調査官として働いていましたが、この論文は、まさに家庭裁判所の方針を明らかにしたものだと受け止め、調停の中でも説明し、調停委員への研修でも、例外に該当しなければ、裁判所は面会交流の実施を勧めることになると伝えていました。
もし、調停で合意に至らなければ、審判によって裁判官が結論を出すことになるので、原則が明らかになることで、手続きが進めやすくなるだろうと理解していました。
一方で、裁判所が「原則通り」に決定したとしても、実際に交流を行う親子や父母の関係が悪いままでは、結論と実態にズレが生じてしまうことも気になっていました。その点で「子ども中心の面会交流」に書かれていることはもっともで、もっと議論する余地があるように感じましたが、上司の中には、外部の非難に惑わされないように、であるとか、あんな本は読むなと言う人もいて残念に思いました。
その後、私は、面会交流(親子交流)は事前に実現を目指したり、誰かが決めるものではなく、離婚に関わる家族の「話合い」(調停等の家庭裁判所の手続きも含む)の結果によってその時点での暫定的な結論が出され、人間関係の変化に伴って変化していくものだと考えるようになり、より長期的な視野を意識して家族ごとの細かい事情にも目配りするようになりました。

そして、2024年の民法改正に伴って、「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」が「家庭と法」誌に掲載され、裁判所の新たな方針が明らかになりました。

その際、「平成24年論考の趣旨が誤解されて『原則実施論』として独り歩きし,一部に,『禁止・制限すべき事由が認められない限り』又は『特段の事情が認められない限り』必ず直接交流を実施しなければならないとの方向で調停運営が行われ,その結果,同居親に対する十分な配慮を欠いた調停運営が行われたことがあったようであり,批判がされてきた。」と説明していることを、自分の経験と照らし合わせて、とても残念に思いました。ここに至るまでの経過を「誤解」によるものだと説明してよいのだろうかと思ったのです。
矯正局が短期間に一旦出した通知を廃止して方針転換するに至ったのは、矢原先生のみならず、処遇現場の混乱から強い問題提起がなされたことや刑法改正の契機が刑務所内での受刑者の死傷事件であったこと等によるものと思いますが、個人的には組織の性格もあるのではないかと思っています。

法務省には民事局、刑事局、矯正局、保護局等、複数の部署がありますが、私が保護観察所に勤務し始めたころは、矯正局長のみが検事でなく一般職(法曹資格がない)だと聞いていました。
保護局長による新採用職員の研修での挨拶の際、いきなりある事件の再審決定についての非難から始まり、社会防衛の重要性を説かれて、なぜ、このような挨拶になるのだろうかと驚いたことは今でも覚えています。その後、保護局長も一般職が務めたことがあるようですが、刑務所や少年院での処遇を担当する矯正局や保護観察での社会内処遇を行う保護局のトップが、処遇現場の経験を持つ一般職であることは実際的でより細かい目配りがしやすくなるのではないかと思います。
一方、裁判所も複数の部署に分かれていますが、最高裁に所属する各局長は法曹資格を有する裁判官です。面会交流の方針に関する論文も家裁調査官等と連名にはなっていますが裁判官名で書かれています。
刑事施設のリフレクティングへの取組みと面会交流に対する裁判所の取組みを比較した場合、それぞれの組織の性格が表れた面があると思いますし、現実の問題を法律的な問題に還元して理屈が整った結論を出すことを目指す裁判所と、処遇を行うことで現実の変化を目指す処遇機関との役割との違いが表れているようにも感じます。

雑誌「精神療法」第52巻4号を読んで